研究レポートReport

第1回 丹田力!室伏広治の強さの秘密を知る!

『静かなる山を動かす!』

2005年1月11日(火)名古屋での仕事を終え、羽田空港に向かうために新幹線に乗った。
偶然にも中京大学時代にお世話になった室伏重信先生と会った。色々とお話していく中で、「動作」の話題になった。私は室伏先生の息子さんでもある室伏広治選手がなぜあれだけのウェイトトレーニングをしていながらケガが少ないのか? そして、部分的な強化目的のウェイトトレーニングが多い中で、どうやってつけた筋肉を筋出力に変えているのか知りたかった。

室伏先生はニヤッと笑いながら、おもむろに右手を差し出し、『松村、俺の右手を上から押してみろ』と言われたので室伏先生の右手の甲を上から下に押さえた。
その瞬間、不思議な感覚が私の身体にかけめぐる。

『どうやってこの力を出しているのだ?』

あきらかに右腕の筋肉は一切使っている感覚がないのにもかかわらず、私の押さえた手は、理解不能な力によって、上に上に押し上げられてしまった。

室伏先生はいったいどこの筋肉を使ってこの力を生み出し、どのようにしてこの力を伝達させているのか? 
不思議そうな顔をしている私に室伏先生から出た言葉が『松村、丹田だよ!丹田!この力を使うと使わないとでは、まったく動作が変わるんだよ!』と言われた。そして、『広治の様に外国人選手と比べて、身体が小さく体重が軽い選手が世界で戦い勝とうとしたら、工夫するしかないんだ』と教えてくれました。

丹田を活用した動かし方は、室伏先生自身が現役時代から取り組んでいたらしい。
驚くことに、現役時代から『腹筋』は一切しなかったという。
瞬間的に丹田を活用して、爆発的な力を出すことを身をもって知っていた。
そして、理論的にもこう説明してくれた。

『筋肉は1平方センチメートル辺り、4~6kgの力を出せる。その事を考えると体幹部(胴体)ほど面積の大きい部分はない。手や足は速く動くが力の出力としては弱い。体感部(胴体)は動きは遅いが力の出力は大きい。この静かなる山のような部分を使いこなせるかどうかで競技力が変わってくるのだよ』
室伏広治選手がそれこそ、字を書く時、食事の時、日常生活のいろいろなシーンでもこの丹田を意識しているという。

室伏先生から頂いたヒントから丹田を意識的に動かす方法を研究していくつかのトレーニング方法を作成した。そして、丹田で作られた力を足先や手の指先に伝えるコツを身につけた。
私の身体も丹田が使えるようになって、この力を足先や指先に伝えられた瞬間から、私の今までの力(パワー)の作り方や伝達方法がいかに間違っていたのかが、身体の感覚を通じてよく理解することが出来るようになった。

その力は「無限大」である。

そして人間の身体は『偉大』であることを改めて知った。
こんなスゴイ「力」を秘めているのに使えなかった。いや知らなかった。
本当に残念である。
もし、現役時代に知り、使いこなせていたなら・・・。
後悔しても仕方ないのだが、それ位真実を知った時は悔しかった。

2006年夏、室伏広治選手の研究発表会があった。
彼の口から出た言葉にまわりの人々は驚きを隠せなかった。
『世界のトップアスリートはウェイトトレーニングをしてない。私自身もエアボールを使って、身体動作を意識したトレーニングを実施している』と話した。
会場の誰もが彼がどんなウェイトトレーニングをしているのか、その強靭な肉体を造ったウェイトトレーニングのメニュ-や回数を聞けると思っていた人々からすれば意味不明な説明にしか聞こえなかっただろう。

これからの時代は自分の身体の内側中心部から力を発生させ、手、足、に伝達する意識や感覚を、自分自身で理解する力「内観力」が必要になってくる。
我々日本の先祖が昔から行っていた身体の使い方が、今、見直されはじめている。

次回の研究レポートは奥の深いテーマになってくるが、この『内観力』を書こうと思う。

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