研究レポートReport

第14回 内観力『骨盤ドリル?、、、、』

追い風参考ながら、10秒2で走った私であったが仙台に戻ってからもしっくしていなかった。
なぜ、あの時は、まるで座禅でもしているかのような静かな気持ちで走れたのだろうか?
100Mを全力疾走で走っているのに冷静にレース展開を分析しながら走っている自分。 



あの不思議な感覚が忘れられずにいた。

しばらく休んでから練習を再開するが、同じ走りがなかなか出来ないのである。
目をつむっては、ひたすら、あのレースを思い返していた。
あの走りを必死で追いかけていたのであった。


次のレースで、必ず同じ走りを再現したくて練習を続けた。


この年、一人、気になる選手がいた。
仙台大学4年生の阿部正道選手だ。

阿部選手は、仙台育英高校時代の二つ下の後輩にあたる。
2年前の北海道国体で、200mで6位、共に走った4×100mリレーで2走をはしり宮城県新記録を出したメンバーの一人。

彼の今年に入ってからの活躍は目覚しいものがあった。

4月21日に行われた群馬リレーカーニバルで
当時日本記録を持っていた宮田 英明選手を破って優勝。
日本インカレでは、10秒51 (+1.0m) で3位入賞。  
日本選手権では、10秒58 (±0) で4位に入った。

阿部選手は、変わった練習をしていた。
足首くらいの高さのミニハードルを10台くらい並べてモモを上げ下げする練習と
ミニハードルをある一定の間隔に並べて、そこを素早く走る練習をしていた。

ミニハードルを使った練習を横目で見ていた私だが
当時の私は、何のための練習なのかさっぱり分からなかった。
むしろ、あんな練習で速く走れるはずなどないと思っていたのであった。


しかし、ミニハードルの練習で、阿部選手はメキメキと頭角を現してきた。


陸上マガジンに、゛遅れてきたスプリンター゛ として大きく取り上げられていた。
あるレースを走った阿部選手のコメントは忘れもしないがこう言っていた。


『レース中でも、ある程度の動作を走りながら修正できるようになりました。』


ミニハードルの使ったトレーニングは、当時、白石工業高校の佐久間紀郎先生が開発されたものであった。

当時の、ミニハードルトレーニングの目的を阿部選手に直接聞いてみた。

・骨盤を意識的に動かすため(。骨盤を上下、前後に動かした。)

・後に足を流さないようにする。(後に足が流れるとハードルにぶつかる。)

・地面接地の抵抗を少なくする。(ブレーキがかかるのを防ぐ。)

・身体の前面で足を捌き、そこに乗っていくイメージ。(積極的接地。)

・最大ストライドと最速ピッチの継続。(移動スピードの向上。)


私自身が、ミニハードルトレーニングの目的を正確に知ったのは翌年の3月であった。 


すごい記録を連発している阿部選手であったが
私も、追い風参考記録とはいえ10秒2で走ったのだから負けたくはなかった。


1991年 7月13日(土) 宮城県選手権 100M


予選で、先に走った阿部選手が10秒55の大会新を出した。
私は、10秒78でその組の1位で通過した。

決勝では、阿部選手が10秒60で優勝。
私は、10秒79で3位であった。

スタートから前半までは、何とかリードできるのだが、中間から後半にかけては完全に離されてしまった。

悔しかったが負けは負け。
しかも完全に離されての大敗。
東日本実業団で走った、あの走りがまったく出来なかった。


阿部選手は、おそらく日本人初の内観力を意識して走ったスプリンターだと思う。
骨盤を意識的に動かすことにより体幹部を活用し、空中動作での骨盤の切り替えしを行い
積極的に接地に向かわせ、地面反力を最大限に生かすために1本の棒のようなイメージで接地する。
ただ、接地するのではなく重心をうまくそこに乗せることにより推進力を増していった。 

当時、間違った情報による膝下を前方に振り出した結果がストライドだと認識されていた時に
阿部選手は、身体全体が移動した距離をストライドとは言わずに移動距離と言った。
ゆっくりと動かせないものは速く動かす事ができないので動作スピードを落としてでも 

求めていきたい動作を正確に出来るようにしてから動作スピードを上げると同時に
移動スピードを上げて高いスピードレベルをキープする走りを身につけていった。

努力と根性では、誰にも負けない自信はあったが
明らかに、阿部選手の練習内容の素晴らしさに私が勝てる要素はなかった。
地面を鬼のように押しまくり、まるで壊れたダンプカーのようにパワーだけでひたすら走る私。
ただ、勝負に勝ちたいと思いながらスタートラインに立つ私と、
阿部選手のようにレースをきちんと組み立てながら走る選手とでは結果が違って当たり前である。
100Mというレースを走る為に、各ポイント点を自分の特性を生かしながら走れることは大切なことであるが
その走りをするための確かな練習メニューを作成してくれるコーチがいることは稀である。
長所を生かしながら短所を直していければ最高だ。
しかし、身体を有効的に使いこなして走りのレベルを向上していくためには
自分自身が身体を理解して、コントロールしていかなければならない。
再現性を高めるためには、いかに意識的に身体を動かす術を持っていないといけないかが分かる。


さらに4年後、今度は肩甲骨を活用することを知るまで長い道程はつづく、、、、、、 



次回の内観力は『現れなかった、あの感覚、、、、、』です。

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