研究レポートReport

第17回 内観力『科学の目で弱点を治す?』

山形の合宿から仙台に戻ってから治療を開始した。

温泉に行き、筋肉を温めては冷水で冷やす事を繰り返し筋肉疲労と強張りを取ろうとした。
家では毎日、競馬の馬がする強烈な湿布薬をして温めた。
また、大学時代にお世話になった針の先生から教えて頂いた筋肉疲労を取り除く
アミノ酸の飲み物を薬局から仕入れて飲んでみたりもした。

日に日に痛みは落ち着いてきたが気分は一向に晴れない。

ある日、車の中で父と言い合いになった。
私の父も陸上の100Mの選手であったが現役時代はケガで苦しんだらしい。
大阪チャンピオンであった父の時代は土のトラックだったから"土を蹴る"走法であったのに対して
今は、タータンのゴムのトラックで当時は、"叩く"とか"押す"といわれていた。

ゴムの反発力を生かす走法と土の蹴る走法ではまったく違う。

私が故障する原因を話していたのだが
前がまったく見えない状況の中、次第にイライラしてくるばかりで
何を聞いても難癖をつけられているようで腹が立ってしまい思わず

"親父の筋肉の遺伝のせいで俺の足の筋肉もケガしやすいんと違うのか~!!!"

と口罰してしまった。
さすがに父もこの言葉には怒りを顕にした。

"おまえのケガを俺の遺伝のせいにするのか~!!!!!!"

その後、一言も喋らなかった。

(重苦しい空気が漂う中、車の運転を続けたことを今でも鮮明に覚えている。)


ケガの痛みが引いて、ジョッグくらい出来る感覚になってから練習を再開した。
いつも練習を行っている宮城野原にある陸上競技場で走り始めた。

そこに、七十七銀行の陸上部の監督であり、元400Mの日本記録保j者の名取英二さんが来られた。
いつもは挨拶程度しかしないのだが、もうケガをしたくない気持ちが大きくて
思いきって名取監督に今後どうしていけば良いのか聞いてみた。

"名取監督、私の走りはどうしたらケガをしないでもっといい走りが出来るようになりますか?"

その質問に対して名取監督の答えは、、、、、

"松村の走りは何かが足りない、しかし、その何かは俺のも分からない
 例えて言うのであれば何かの料理に対してその料理引き立てる調味料のようなものなんだが
 その調味料を何を選んだら良いのかが分からない"

より詳しく知りたいのであれば、愛知県の阿久比にあるスポーツ医・科学研究所の行ったらどうかと薦めてくれた。

バルセロナオリンピックの選手達も行っていた場所であったので名前は知っていた。
様々な検査を行い、弱点克服の鍵を教えてくれるのであれば是非行ってみたいと思った。 

善は急げと早速調べていく事を決めた。


どんな治療をしてくれるのだろう? どんなトレーニング法を教えてくれるのだろう? 

ワクワクする気持ちを抑えるのが大変であった。

広大な敷地に素晴らしい設備が整った場所で近くに陸上競技場や野球場も見えた。
最新の治療法やトレーニング法で私の身体は生まれ変わるのだと希望が湧いてきた。

最初に検診があり、専属の医師から診てもらう。
しかし、あまりの単純な検査方法に初っ端から愕然としてしまった。

診察台に仰向けに寝転んで片足づつ直角に足を伸ばしていく検査をして
いわれた言葉が、"異常なし"である。

あまりの期待はずれの診察結果を聞いて思わず聞き返した。

"ケガをしたくないから誰よりもストレッチをして身体は柔らかいのに
 なぜか肉離れをしてしまうのです。その原因を知りたくてこちらに来たのです!"

その言葉を聞いた医師は、
"筋肉の柔軟性は問題ないので後は筋力のバランスなどをチェックしてもらって下さい" 

と言うだけで診察は終わった。

落胆しながら次の検査室に向かった。
入った部屋には数々のマシーン置いてあった。
ここでは、筋力測定をするために、『サイベックス』というマシーンで
大腿四頭筋と大腿二頭筋の筋力差を測定して弱点を見つけるということらしい。

説明を一通り受けた後、マシーンでの筋力測定が始まった。

このマシーンはかなりしんどかった。
大腿四頭筋の力で膝下を前方に押し出し、今度は大腿二頭筋の力で後方に引き戻す動作だ。
しかし、パワーだけは人一倍強かった私はガンガンマシーンを動かしていった。
マシーンから降りると乳酸の溜まった足で膝がガクガクしていた。

しばらくして、筋力測定の結果が出てきた。

そして、いわれた言葉にまたもや愕然としてしまう。
"あなたのパワーは凄いです!オリンピック選手レベルのデーターが出ています。
 筋力に関しては申し分ないですね!"

期待はずれの言葉に今度は言い返す言葉も出てこなかった。


その後、"ここの研究所一"と言われている某先生との面会があった。

あまりの期待はずれの答え聞かされてショックを受けたので
某先生とのお話で故障の原因をすべて教えていただこうと気持ちを改めた。

しかし、その期待も虚しくわずか3分で終わってしまう。

某先生にお逢いするなり、私がここに来た経緯を話た後に
ここで受けた検査結果に対して何の回答にもなっていないと申し立てると
急に不機嫌な顔になり、"この青二才が俺様に意見する気か!"といわんばかりの態度になった。

"私が研究していないことは分からない"

この一言で終わってしまった。


当時の陸上関係の雑誌で動作解説をしていた某先生。
この人なら私の弱点克服の鍵を教えてくれるかもしれないと
意気込んで仙台から来た結果がこれであった。


私は、ここに何しに来たのだろうか。


某先生の研究室を出てから最後に行ったところがリハビリルームであった。
この時は、正直に何の期待もしていなかった。
理学療法士のU先生は笑顔で始めようと声をかけてくれた。

いろんな体勢から身体を動かし左右の筋力の検査を行った。
内容は、今、流行の体幹部トレーニングの指導を受けていた。

とりあえず腹筋と足との連動動作が弱いと指摘され
正確なフォームと回数を求められて腹筋が痙攣するまで行われた。
初めて行うものばかりで最初は上手く出来なかった。

U先生のお話だと体幹部(胴体)と足との連動に左右差があるので
弱い方の足に負担がかかりケガをするのでないかと言われた。

医師からの診察も某先生の話もろくでもなかったが
U先生にアドバイスを頂けただけでもここに来た甲斐があった。
ケガをしたくない一心であった私は、U先生のリハビリメニューをすることに決めた。 



仙台に戻り、またチャンピオン目指してトレーニングを続ける私であったが
"あの走り"とは程遠い走りしか出来ない状態が続くのであった。



今の私なら、当時U先生から指導されたトレーニングは一切やらない。
なぜなら筋肉ばかりに注目していて骨を活用することを全くしていないからである。
そして、一番大切な身体の重さ(体重)を使うことをしていないのだ。
最近、リニューアルしたホームページにも書いたが、
腹筋、背筋、腕立てをいくらしても正直ムダである。
現在のスポーツ選手でこの3種目をしていない人を探すほうが難しいかもしれない。
身体を各パーツとして捉えてしまって、身体全体をトータルで動かすこと考えていないのだ。

また、スポーツ科学の分野においては通常の科学とは違うと思われる。

私が尊敬してやまない甲野先生のお言葉をお借りすると
車の運転に例えると、ハンドルを握り、アクセル、ブレーキ、方向指示器、ワイパー、ドアミラー、ルームミラー、
そして周囲の音を聞くという同時にいくつも動作を平行して行うことによって車の運転を行っているわけであり
この時に、どれかひとつの動作だけをピックアップしていくら研究したとしても車の運転が飛躍的に上手くなる訳がない。
スポーツの動作解析を科学的に研究しようとしても部分的な動作だけをいくら調べあげても意味がないことを理解して頂けると思う。

人間の持つ、骨、関節、筋肉、臓器、神経、体重、そして脳の活用法、、、、etc

いろんな部分を統合させて動かすからこそ素晴らしい動作が出来るのである。
私が今、研究している骨を動かすトレーニング法などは、もしかしたら微少すぎて測定出来ない『力』かもしれない。
しかし、私のメッソッドを実践して頂いている方はその効果にみな驚かれている。

そして、後日知ることになるのだが
私の筋力測定で使われた『サイベックス』を100Mの日本記録保持者である伊東 浩司選手が行った結果、
女子選手なみの『力』しかないと言われたらしい。

・"女子選手並"の筋力しかない伊東選手は、10秒00の日本記録を樹立した。

・松村 卓は、"オリンピック選手並"の筋力があると絶賛されながらケガばかりした。 


この矛盾した答えをどう科学者は答えるつもりなのであろうか?


次回の研究レポートは『あの走りはどこに、、、、』です。 6月1日の予定です。

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