研究レポートReport

第24回 内観力 『次々に変化していく私の身体』

1996年は、アトランタオリンピックの年である。

6月に行われた、日本選手権で代表選手が選考された。

注目は、男子100Mで、10秒14の日本記録を出した朝原 宣治選手と
200Mで、20秒29の日本記録を出した伊東 浩司選手の二人であった。

両選手とも、本番で力を出せれば準決勝に進出できるタイムを持っている。
あわよくば決勝進出が期待できる。

日本人でも、世界に通用することを結果として是非、出して欲しいと心から願った。


世界レベルの走りなど、今の私には到底できない事は百も承知であったが
ただ、ただ、自分の走りのみを極めていこうと、小さい願いかもしれぬが
一人、鳥取へ向かっていた。

約8ヶ月振りに、ワールドウイングを尋ねた。

久しぶりに再会した小山先生のお顔を見て嬉しくなった。

まず、いろんな諸事情をお話した後、
トレーニングが出来ていない現状も正直にお伝えした。
その上で、目指していきたい目標もお話した。

しかし、小山先生は笑顔で一言、、、、

『大丈夫だよ! タッ君! 初動負荷トレーニングは、短期間で回復出来るから心配しないでいいよ!』

と、言ってくれた。


まず、取り組んだのがベスト体重に戻す為の食事療法とサーキットトレーニングであった。

食事療法といっても、昼食だけバナナにして軽い食事にするだけなのだが
これが以外にも即効性があり、その変化の仕方には正直に驚いた。

サーキットトレーニングは、かなりしんどいのかと思いきや、
通常のトレーニングとは全く異なり、いかに息を上げずにやるかが問われるという。

いや、もっと正確に言えば、"息の上がらないトレーニング"と言うべきかもしれない。 



初動負荷マシーンと初動負荷トレーニングは、効率よく身体を動かす為に
息が通常のトレーニングよりも上がらないので長時間のトレーニングも苦痛にならないのである。

しかも、トレーニングを行えば、行うほど身体が軽くなっていくばかりでなく、
柔軟性や可動域が向上していくので究極の有酸素運動だと思った。


この時、サーキットトレーニングの中に、"腹筋1000回"のメニューがあったのだが、
普通の腹筋と違うところが、いかにお腹に力を入れないで1000回行うかがポイントなのだ。
お話しながら、または、歌を歌いながらでも行える状態でと言われ仰天してしまった。 



となりで、同じメニューをしていたのがボクシングの世界チャンピオンの井岡 弘樹選手であった。

こんな腹筋をして、本当に身体に効果が出るのかが心配であった私は、
思いきって、井岡選手に聞いてみたのだが、、、、

"大丈夫ですよ! この腹筋の方が私のパンチ力もスピードもアップしましたから!" 



その答えの意味は、1000回の腹筋が終わった後、
歩き始めた数歩で私の身体の変化で納得してしまった。

"滑らかに、しかも楽に歩けれる、、、、なぜ、、、、????"


一通りのトレーニングが終わると、治療室に行くようにとスタッフの方に言われた。

ケガもしていないのに、何の治療をするのだろうか?

意味も分からないまま、治療室に行くと、先客が居て悲鳴を上げていた。
不適な笑みを浮かべながら、Tさんは足で黙々とうつ伏せに寝ている選手を踏みつけていた。
あまりにも予想外の展開に驚いてしまい、息を潜めながら見ているしか他なかった。

そんなに強く踏まれている訳ではないのだが、
受けている側の選手は、悶え苦しむ声を必死で押し殺して
その痛みに耐えているのであった。

きっと、痛みに弱い人なんだろうな、、、、

と、甘い考えでいた私だが、実際に受けてみると、例えようがない痛みに絶句してしまった。
痛いなんてもんじゃない、拷問かと思ってしまうくらいに痛くて痛くて耐えられない。 


あまりの痛さに涙が出てきた。

"じゃ~、一回、起きて動いてチェックしてみて~"

と、Tさんに言われたが恥ずかしながらあまりの痛さに即座に立てなかった。
放心状態にも近い状態であったが、なんとか立ち上がり動作をしてみると

"俺の身体って、こんなに楽に動けるのか?"

Tさん曰く、硬化した筋肉をほぐす事により、
肩甲骨や骨盤周りの可動範囲が広がり、動作を行うのが非常にスムーズになるという。 



つまり、私が放心状態になるくらいの痛みがあると言うことは
それだけ、余計な筋肉を付けてしまったせいで関節の可動域を狭めてしまい
その上、筋弾力性が失われ、硬化してしまったことで様々なケガをしてきたこという事だ。

"この痛みが消えるまで、元の身体には戻れないのか、、、、、"

身体は、物を言わぬが
今まで、とんでもない鍛え方をしてきてしまったせいで
こんなにも動けない身体にしてしまっていたとは夢にも思わなかった。

今度は、自らTさんに深々と頭を下げて、

"どんな痛みにも耐えてみせますので、どうか元通りの身体にして下さい!"

と、お願いした後、うつ伏せになり治療を再開してもらった。

痛みの中、またもや過去に行ってきた様々なトレーニングが頭の中を過ぎっていた。
おかしい、絶対におかしい、今までのトレーニングの結果がこの痛みなんて、、、、
痛みと悔しさが入り混じった涙を流しながら苦痛と一人戦っていた。



今もなお、ウエイトトレーニングや腹筋・背筋・腕立てなどの補強をやる選手が後を絶たない。

鏡に映る、筋肉で逞しくなった身体を見て、嬉しくなる気持ちは私自身もよく分かる。 


しかし、スポーツ選手の場合、必要な筋肉だけで十分なのである。

筋肉を付ける前に、まず自分自身の身体の重さ、つまり体重を上手く活用することが先決だ。
この研究レポートが進むにつれて、身体の重さの使い方を書いていくことにはなるのだが
それ以上に大切な事は、動ける身体作りのためには、身体の中心部から動かしてほぐしていく事である。

肩甲骨や骨盤を中心とした、関節や筋肉の柔軟性や可動域をアップさせる事が重要なのだ。
(末端部を制御することにより、体幹部を中心に動かしながら身体のバランスをアップさせる方法が骨整体の基本になっている。)
手足の末端部の筋肉よりも体幹部の巨大な筋肉を使いこなす方が計り知れない力を生み出すことが出来るだけではなく
身体全体のバランスアップや筋出力の出方が想像を遥かに超えた世界がそこにはある。 



ラダーを使って、ちょこちょこ末端部で速く動けても体幹部からの出力で速く手足を動かすトレーニングをしていかなければ
本来の身体機能を生かした素晴らしい走りはけっして出来ない。
ベンチプレスをいくら挙げようが速く走ることに繋がる確率は非常に低いのである。

逞しくなった身体と引き換えに、滑らかな動きが出来なくなり、首や肩、肘や背中、腰や足に痛みが出てもなお無視し続け
スポーツ選手に、"ケガは当たり前"、"ケガをして一人前"、"痛みを堪えてこそ一流の証"など言われているが
身体の悲痛な叫び声を一日も早く聞き取ってあげて改善して欲しいと願っている。

なぜならば、身体に負担のかかるトレーニングを行うということは活性酸素を大量に排出している事実がそこにあるからである。
スポーツ選手が、自分の栄光や夢のために命を削られることはおかしな話である。
現役時代は、まだまだ若いから気にもならないであろうが中高年になると健康状態に明らかに差が出てきてしまう。
(身体を活性酸素の害から守るために、TOPSENSE商品は開発された。)

本来、いいトレーニングをすると身体は喜び、益々、いい動作が出来て、健康な身体になるはずである。
私が、スポーツケア整体研究所を開設した理由は、結局、普段行う動作から見直していかなければ根本的な解決にはならない事にある。
動作をより良くして、身体に負担がかからず、健康的にも身体を害さないことが絶対に必要なことなのである。
痛めた結果、その部分だけを治療して治ったとしても動作は改善されていない訳だから、また同じケガで悩み苦しむことになる。
どう考えても、日常の生活やトレーニング中の動作を改善してあげなければ結局苦しむのは本人なのだ。

スポーツが、本来の姿に戻る日を祈願してやまない。



次回の内観力は、『初めて知った、"力点の世界"』です。8月10日の予定です。

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