北村 昌陽 様

「なんだこの身の軽さは?!」

骨ストレッチの講習会場で、WTシューズ革靴タイプを初めて試し履きしたときの第一印象が、これだ。
まるで足に羽が生えたみたいに、その場でぴょんぴょん跳ねたくなる、そんな感覚。
ランニングシューズタイプとはまた違う心地よさが決め手となり、すぐに購入を決めた。

約2カ月後。待ちに待った完成品が届いた。
ワクワクしながら足を入れ、すぐに外へ出た。

だが不思議なことに、歩き出した直後の感覚は、あの試し履きの第一印象とはかなり違っていた。
体が妙にギクシャクして、正直、歩きにくい。
つま先が地面に引っかかり、何度も転びそうになった。

「なんだ?何が起きているんだ?」

しばらく歩いているうちに、「何が起きているのか」が、だんだんわかってきた。

このシューズを履いて歩くと、お腹や太もも、腰回りなどの緊張が取れていく。
すると、体で感じる実感としては、「脚が長くなったような感覚」が湧いてくる。
通常、脚は太ももの付け根あたりから始まっていると感じている人が多いだろう。
だがこのシューズの使用中は、脚の始まりの位置がどんどん高くなり、
まるで「みぞおち」や「肩甲骨あたり」から生えているような感覚が、体の中に湧いてくるのだ。

この新しい身体感覚に慣れるには、どうやら、少し時間がかかる。
何しろ、今までよりかなり脚が長くなっているのだから。

それで動きがギクシャクし、自分の脚を操り損ねて、地面を何度も蹴っ飛ばした、ということらしい。

しばらく歩いていれば、感覚は徐々に馴染んでくる。
それと同時に、あの「ぴょんぴょん跳ねたくなる身の軽さ」も、よみがえってきた。

いろいろ試したところでは、アスファルトのような人工的な硬い路面より、土や芝生、砂利道など、
自然物の表面を歩く方が、緊張が取れやすく、馴染むのも早いように思う。
できれば手ぶらで歩く方が望ましい。
靴下は、ゴムを使わない締め付けの緩いものがいい。

さて、この靴を何度か履き、新しい感覚がかなり馴染んできた頃の、ある日。

私はいつものように家を出て、最寄りの地下鉄駅を目指して、いつもの道を歩いていた。

信号待ちで立ち止まった交差点。
ふと、いつも見慣れているはずの街の風景が、いつもとは全く違う印象で見えていることに気づいた。

目線の先をまっすぐ伸びていく道路のずっと先、交差点5、6個ほど先に小さく見える信号から、
さらにその向こうへと通りが伸びていく彼方の光景が、鮮明な像として、シューンと視界の中に飛び込んできたのだ。

えっ、何が起きたの? と驚きを覚えるほど、それはいつもと違う光景だった。

普段、ぼんやりと立っているときには、こんなに遠くを見ていなかったと思う。
何気なく目線を置く対象はたいてい、10~20メートルぐらいの範囲(例えば交差点の反対側にある信号や、
そこに立っている人々など)。つまり無意識に合わせられる目の焦点距離は、そのくらいに設定されていた。

私はもともと、視力はかなりいい(両目とも2.0)。その気になって遠くを見ようとすれば、できる。
でも、ぼんやりと目線を置く地点は、比較的身の回りに置かれていたように思う。

なのに、いつの間にか、自然に眺めている地点が、はるか遠くへとシフトしていたのである。

これがWTシューズの影響だけで起きた現象なのかは、正直言って、わからない。

そこにどういう意味があるのかも、よくわからない。

ただ、体の中で、今までとは違う何かが起きているという感覚はある。それがとても、興味深い。